NO.311
様々なことがあった1年、試練を乗り越え 留学生支援を進めていきたいと思います!!
援護協会(IAVI)は、2024年の新年早々、国際交流基金から「地球市民賞」を授与され、これまでのアジア・アフリカの視覚障害者支援の活動が評価されただけではなく、これまでの実績の上に、『ロータス通信』毎号の紙面を飾る様々な発信が、前にも増してできるようになりました。
とは言え、築30年を越して老朽化が進んできた舟橋記念会館の建物の維持ばかりではなく、事務局に詰めているスタッフも加齢が進み、後継者による事業の継承が最大の課題になってきています。
そうした中、会計の仕事ばかりではなく、留学生のお世話も含めた諸事万端を取り仕切ってきてくれていた事務局のかなめ、中陽子さんが去る11月10日、悪性のガンとの闘いの中、急逝されてしまいました。
享年50歳という若さでした。頑張り屋の中さんの旅立ちは、本人としても無念さがいっぱいのものだったでしょうし、協会にとっても残念でなりません。ご冥福をお祈りするしかできないのが辛いところです。
そうした中、モンゴルから新しい留学希望生、ポンサルさんが来日しました。日本留学が稔りあるものになるように、みんなで応援していきましょう。
援護協会への財政支援もお忘れなく!!!
セントルシアにおける視覚障害指圧師養成ボランティア活動報告
鍼灸マッサージ師 綱川 章
はじめに
中米、カリブ海地域では、視覚障害指圧師が、2009年にニカラグア共和国で、同国の東洋医学大学の社会貢献活動により、誕生した。カリブ海の東部、セントルシアでは、JICAシニアボランティア黒岩春地氏の精力的な活動により2019年に視覚障害指圧師を育てるプロジェクトが始まった。
2020年1月にはJICA海外協力隊の渡邊みきさんにより指圧講座が予定を早めて開始されたが、コロナ禍により同年3月に中断した。
それから2年半後、2022年9月に私が赴任し、漸く講座を再開できた。以下、その活動を報告したい。
活動期間:2022年9月より2024年8月
場所:セントルシア視覚障害者協会
身分:JICA海外協力隊、鍼灸マッサージ師
活動形態:介助員(妻)が同伴(JICAによって障害のある隊員の場合、介助員が同行する制度が新設された。)
活動目標
目標1 指圧師養成の職業教育支援
視覚障害指圧師を育て、職業的自立を支援する。
目標2 教育基盤の整備
(1)指圧師養成カリキュラム改編
(2)東カリブ海指圧センター設立支援
将来、周辺国の視覚障害者も対象に指圧師を育てる役割を果たすセントルシア指圧センター(仮称)を設立する活動である。
目標3 指圧の啓発
指圧ワークショップやデモンストレーションなどを開催、人々との友好親善を図りながら指圧の啓発活動を行う。
活動結果
目標1 指圧師養成の職業教育支援について
1.第1期指圧講座開催
開催期間
2022年10月より2023年6月
生徒
4名(年齢30から40歳代、男1名・女3名、弱視3名・全盲1名)
内容
指圧理論と実技256時間、担当綱川(月曜から木曜、1日1.5時間、週6時間)。指圧テキストはニカラグア東洋医学大学のもの(浪越式)を使用。
解剖生理学153時間、担当セントルシア人講師マービン・チャールズ氏(月曜から水曜、1日1.5時間、週4.5時間)。解剖生理学テキストは、チャールズ氏が用意。模型は愛称『ミゲル』の等身大の骨模型とチャールズ氏自作品を使用。
修了認定基準
年4回の試験で、平均60点以上の成績、80パーセント以上の出席率を得ること。
卒業
3名
2.第1期臨床研修講座開催
内容
第1期指圧講座の卒業生3名を対象に視覚障害者協会内に指圧クリニックを設け、外来患者の施術に立ち会って、助言・指導した。
施術時間1時間(挨拶、診察、施術、患者へのアドバイスなど)
施術料金70カリブドル(約3500円)、うち研修生には30カリブドル(約1500円)を分配。施術料金は視覚障害者協会が定めた。
また、患者がいない場合は、症状別指圧法、指圧施術の応用手技(体操法、リンパドレナージ、筋膜リリース法、関節モビリゼーション)、経絡経穴、全身按摩などを指導した。その他、必要に応じてカンファレンスを実施した。
同講座のまとめに臨床体験発表会を開催した。修了証書は、第2回指圧講座の卒業式の場で、授与された。
3.第2期指圧講座開催
開催期間
2023年8月より2024年4月
生徒
7名(年齢20から60歳代、男3名・女4名、弱視4名・全盲3名)
指導内容
指圧理論と実技256時間、1日2時間、週8時間、32週、前年度に比べ、週当たりの時間数が増加したことで、指の損傷などを防ぐため、休みを入れながら実施した。
解剖生理学153時間、前年度同様、34週
履修期間は9カ月で、指圧と解剖生理学の終わる時期を、ほぼ同じにした。これにより前年度と比べ、バスで通ってくる生徒の交通費の負担が軽減された。
卒業
4名
4.第2期臨床研修講座開催
開催期間
2024年5月より2024年8月
内容
前年度同様。
患者がいない場合は、症状別指圧法(昨年、最も多かった変形性膝関節症から研修を始め、肩こり、頚肩腕症候群、五十肩、腰下肢痛まで、慢性期のみ)を指導した。
なお、本講座は、2024年9月以降、後任の協力隊員栢之間理沙さんにより引き継がれている。
5.指圧クリニック
2023年2月、視覚障害者協会の会長が会長室と指圧教室とを交換してくれたことで実現した。指圧クリニックは広く窓があり、部屋の環境が改善され、ベッド4台を備えている。
患者の頭顔面部の施術の際に術者が使う椅子がある。他に事務机、パソコンがあり、施術中にリラックス用のBGMを流した。
術者が誠実な態度で患者の施術に集中するように心構えを正すフィジシャンズ・プレッジを壁に掲示している。
施術同意書を作成し、初診時に使用している。施術料金の徴収は、2023年7月から始めた。以来、2024年8月までに累計で105名の患者が訪れ、7000カリブドル(約37万円)以上の収益が視覚障害者協会にもたらされた。
6.実技の指導方針と指導サイクル
実技の指導に当たっては、指圧の技術を指導者の手から、生徒一人一人の手へ伝えるように心がけた。
指導のサイクルは(1)生徒一人一人に模範を示し、(2)ペアを組んで練習、(3)各生徒からその技術を受けて評価、(4)生徒一人一人に実現可能なアドバイスを与える、(5)練習を繰り返し、技術の向上を図った。
目標2 教育基盤の整備について
1. 指圧師養成カリキュラム改編
第2期指圧講座では、総時間数は変えずに履修期間を9カ月に短縮した。 側臥位と座位の全身の術式を作成した。高齢者、妊婦などの施術に適している。座位の全身の術式は、指圧デモンストレーションにも活用できた。2.指圧センター設立支援について
今回の活動では必要条件の一つであるセントルシア人の指圧インストラクターを養成する計画を作成し、同協会に承認された。そして、第1期および第2期の指圧講座から、インストラクターの候補生を各1名ずつ同協会に推薦した。
将来、2年を任期とする盲学校教員が派遣されるとき、視覚障害者協会が、それまでのインストラクター候補生の中から最終的に2名を決定し、教員が指圧インストラクターを育てるという計画である。
具体的には、盲学校教員が2年をかけて2名のインストラクターを育てる。
1年目は、教員がその年の指圧講座を指導、候補生は助手、2年目は、候補生がその年の指圧講座を指導、教員は監督者となる。
目標3 指圧の啓発について
様ざまな機会をとらえて、指圧を知ってもらう活動を展開した。
1.指圧ワークショップ二つの特別支援学校で、小さい子供向けの短時間指圧法、中学生向けの指圧法を先生方に紹介した。 2. 指圧デモンストレーション
指圧講座生、臨床研修生と共に、あるいは単独で、公園、会社、病院、イベント会場、カストリーズ・マーケット、また、他のJICA海外協力隊員の活動場所へ出向いて、一人15分間程度の指圧を施した。
指圧デモンストレーションは2年間で29箇所の場所に出向き、合計38回実施できた。
指圧を体験してくれた人は、累計500人以上となった。 3. 指圧クリニックの宣伝ビラ配布
指圧クリニックの宣伝ビラを作り、臨床研修生と共に、市内を歩いて回り、人々に手渡し、宣伝活動を行った。
まとめ
(1)セントルシアで初めて、7名の視覚障害指圧師を育てた。
(2)指圧クリニックを開いて臨床研修講座を開催し、研修生が患者を施術して、収入が得られるようにした。
(3)指圧クリニックは、7000カリブドル以上の収益を視覚障害者協会にもたらした。
(4)指圧講座の履修期間を9カ月に短縮した。
(5)側臥位と座位の全身の指圧術式を作成し、指導した。
(6)指圧デモンストレーションで指圧を体験してくれた人が、500人以上になった。
(編集担当より:紙面の都合でダイジェスト版を作成していただきました。全文はHPに掲載させていただきました。)
≪人生のふれあいの旅≫
賴 芝螢(前名 麗凌) 台湾在住
私は台湾在住です。1993年大学4年生の時、観光で日本に来て初めて出会った友人は新井愛一郎さんです。
翌年、台湾盲人重建院(台湾にある視覚障害リハビリテーションセンター)から日本ライトハウスに派遣されて訓練とリハティーチャーの研修を受けに来ました。
1年後帰国して、ずっと視覚障害に関わる仕事をしてきました。
大学の日本語学科で目が不自由な人のための部活動に参加したのが、視覚障害とのかかわりができたきっかけです。
視覚障害者の理解とは
歩行訓練と、日常生活訓練の他に、視覚障害者の手引きの仕方の講師をしてきました。歩行訓練を指導した経験からわかったことは、晴眼者であれ、視覚障害者であれ、視覚障害に関して理解できていないのでは、ということです。
講義の中でよくアイマスクをさせてお弁当食べたり、バスに乗ったり電車に乗ったり体験させました。
その時、自分の体はどういうふうに動いたとか、どんな気持ちであったのか、どういうふうに他の感覚を使って情報を処理するのか、ということが大事なことだと思います。アイマスクを着ければ視覚障害者が理解できるというわけではないのです。
視覚障害者の理解と視覚障害の理解とは違うと思います。視覚障害者とは目が不自由な人間です、そして皆がそれぞれ違うのです、私はこの点を大切にしていきたいです。
日本語と視覚障害者の理解
視覚障害に関わる仕事のおかげで、日本でも台湾でもたくさんの人と出会ったり、心の交流もできてとても良い体験でした。
目が不自由な方、もちろん運転も無理だし、自転車に乗るのも危険なので、諦めたと想像できるんですけど、2人乗りのタンデム自転車を御存じですか。ボランティアさんは前に乗り、パイロットと呼び、視覚障害者は後ろに座りコパイロットと呼びます。台湾で「協力車」といいます。
2人の力を合わせて前に進んでいって、風を追いかけていくようなスポーツです。日本でもこれから広げていくようです。
今年3月CVJのメンバーが台湾で4日間のふれあいサイクリングを行いました。また4月台湾のメンバーが日本に行き、大阪CVJ主催の第14回ふれあいサイクリングに参加させていただきました。それから10月、台湾1周サイクリングを、約11日間行いました。ボランティアさん、視覚障害者がお互いに協力して、たくさん笑い話と思い出をつくりました。
目が不自由になっても、タンデム自転車は乗れると実感しました。
私は、サイクリングイベントの中で、パイロットと通訳の役目もさせていただき、とても貴重な経験だと思います。
そしてIAVIのいろいろな国の元留学生達がインターネットで開催している日本語教室に、3年間位前から参加させていただいたおかげで、日本語は難しいけれども、だんだんうまく使えるようになってくることはとても喜んでいます。
たくさんの人と出会ったり、自分の人生にとってとても忘れられない思い出をいっぱい作りました。また自分ができることで、周りの人の役に立てばとても価値のある人生と思っています。
これからも視覚障害者に対しての理解を広めていくこと、また日本語の勉強も進むように人生の道を歩んで行きます。
今まで出会った人、心からお礼を申します。会える日を楽しみにしています。文章をお読みになり、ありがとうございました。
◎サマットさんの頑張りを描いた漫画◎
NHK WORLDにはカメルーン出身の漫画家・星野ルネさんが外国出身の若者たちと交流し、彼らの人生を漫画に描くドキュメンタリー番組があります。私たちの支援しているキルギスのサマットさんが取り上げられたことは IAVIのHPでご紹介しました。その漫画の日本語版ができました。
中途失明での絶望、希望の光と日本留学へ、日本で支援してくれた人との出会い、慣れない生活の中での頑張り、支えてくれた家族、これからの夢と、わかりやすく6ページに描かれています。
HPには漫画自体とそれを音声読みしたものをアップしました。
漫画を通してこちらのメイン活動についても、わかりやすく知ることができますのでぜひプリントアウトしてお知り合いにお渡しください。
■訃報■
事務所に響いた明るく大きな声が聞けなくなってしまいました。
経理事務を担当してくれていた中陽子さんが11月10日に急逝されました。
経理関係だけでなく、すべての事業に関わる仕事をしてくださっていました。
数字に強く、完璧な経理事務はもちろんでしたが、留学生に対してもきちんとした指導と共に、大変やさしく接してくれていました。
留学生が「ただいま!」と来館すると、玄関に飛んでいき、「元気だった?」とやさしく迎えていました。
また、野菜が苦手なファイズさんには、いろいろな野菜を大変細かく刻んでハンバークなどにいれて、食べてもらっていました。
おかげで、ファイズさんは学校でも大分野菜を食べられるようになったようです。
私が、最後に事務所でお会いしたのはロータス通信の9月号発送の日だったと思います。郵便局への支払いを終えて体調がすぐれないということで、ベッドで横になり、休んだ後タクシーで帰宅されたようでした。
9月の数日の出勤はほとんどこのような状態でしたが、意志の強い彼女はお休みしている自宅や入院時の病院からでさえ事務処理のためのメールなどをしてくれていました。
お体は大変そうでしたが、元気な声でしたので、あのパワーは絶対に病気には負けない、と私は思っていましたが。
最後のお別れの時に、「最後までお疲れ様でした、本当にありがとうございました。」と一言申し上げました。その際、会員の方々や留学生たちの顔がたくさんかすめていきました。
養成施設卒業後に留学生の歩行訓練でこちらに来てくださり、結婚後退職されましたが、子供さんが大きくなって今度は経理の仕事でこちらに来てくださいました。
どれだけ多くの留学生がお世話になったことか。
耳に残っているあの元気で大きな声は、私たちに「頑張れ」との励ましだと思い、静かな事務所で思いを巡らせる日々です。
心よりご冥福をお祈りいたします。
(事務局 新井)
◎事務局からのお願い◎
事務局では、悲しい状況にも負けないで頑張ってやっております。
とにかく、いろいろなことをお願いしていましたので、新しい体制での事務処理を確立するのに、懸命にやっておりますが、なにかお気づきのことがありましたら、ご遠慮なく事務局までご連絡ください。
一つ一つきちんとやっていきますので、どうかご理解とご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
今月の写真
タンデム自転車のパイロット役の頼さん
マレーシアフェアを楽しみました
=業務日誌=
9月
2日 多目的室用エアコン、搬入。
3日 田中君、お父さんと来館。
6日 時事通信・寺田さん、来館・取材。
13日 多目的室用エアコン、据え付け工事。
14日 こもどサロン、東京ジャーミー見学。
19日 ロータス通信310号、墨字版発送作業。おたがいさまネットワーク月例会に参加。
21日 筑波盲寄宿舎、閉舎。ファイズさん、来館・宿泊。
23日 ファイズさん、新井さんと福祉機器展示会を見学。
24日 ファイズさん、筑波盲寄宿舎へ移動。
26日 留学生招聘事業第2回検討会。
29日 グローバルフェスタJapan2024に参加。斯波さん、講演会&慰労会(浜松)に参加。
10月
1日 ロータス通信310号点字版、制作・発送。
11日 NHKワールド、サマットさんの紹介番組放送。
18日 田中君、来館・荷物を移動。
22日 レカさん通訳でネパールのアミットさん支援の相談。
23日 入管訪問(留学希望生・ポンサルさんの在留資格申請)。
24日 レストルーム工業会スタッフ来館・情報交換。
31日 入管から在留資格認定証明書が電子メールで届く。
11月
1日 サイトワールド、点字考案200年記念事業に参加。リンさん、シズさん、来日。
2日 メイさん、ファイズさんとマレーシアフェスに参加。
7日 リンさん、シズさんの歓迎会を開催。
9日 こもどサロンを開催。
10日 闘病中の中さん、亡くなる。
15日 西五反田・安養院で中さんの葬儀に参列。
25日 傳田さんと本間さんで会計事務の引き継ぎ。
27日 レカさん通訳でネパールのアミットさん支援の相談。ポンサルさん、ガンゾリグさん、来日。眼科検診。
28日 ポンサルさん、区役所で住民登録ほか。
29日 ポンサルさん、筑波盲学校で教育相談。
30日 ポンサルさん、筑波盲寄宿舎寮祭を見学。
12月
1日 留学生と清水地域活動見本市に参加。
2日 ポンサルさんの受験願書を筑波盲に提出。
14日 『ロータス通信』第311号墨字版発送。
社会福祉法人 国際視覚障害者援護協会(IAVI):https://iavi.jp/
〒174-0052 東京都板橋区蓮沼町20-18
電車でお越しの方:
都営地下鉄三田線「本蓮沼」駅下車
「A1」出口を右に出て一つ目の信号を右に曲がり、右手3軒目。徒歩3分。